「やわらかい手」 IRINA PARM


*サム・ガルバルスキ監督
*2007年 ベルギー/ルクセンブルグ/イギリス/ドイツ/フランス

**ロンドン郊外の小さな町。平凡な、夫に先立たれた中年の主婦マギー。彼女の最愛の孫、オリーが難病に罹り、6週間以内に外国で最新の医療を受けなければ助からないとの宣告を受ける。息子夫婦にはこれ以上費用を工面する力はなく、マギーも何とか力になりたいと金策に奔走するが上手くいくわけがない。絶望の中、ロンドンのソーホーにあてどなく迷い込み、偶然目にした“接客係募集・高給”の貼り紙に飛びつく。ところがそこは風俗店で、オーナーのミキは、世間知らずのマギーにあきれながらも、彼女の手の柔らかさに素質を認め、壁の穴越しに手で男をイカせる仕事に雇おうとする。マギーは一度は逃げ出るが、覚悟を決めその“仕事”を始める。すると意外にも彼女はゴッド・ハンドの持ち主だった・・・。

イギリスが舞台のいつもの大味イギリス映画と思いきや、テイストはヨーロッパ風ビター。
「フル・モンティ」あたりのハートウォーミング・コメディを期待すると大いに裏切られる。
マギーの捨て身の行動は母性愛というだけでは語れない。愛するものを守るため犠牲を厭わずその意志は揺るがない。どんなときも誇り高く、最善を尽くそうとする姿は美しく、崇高でさえある。
まじめに力の限り生きていれば、きっと幸せになれる。ひとりの人間が秘めている可能性はいっぱいあるんだって、そんな風に信じられる。

主要人物は少数ながら、簡潔なセリフと無駄のない演出によって、人間関係は明確で興味深い。
舞台設定は刺激的ながら映画の色調は押さえられ、マギーのように地味だが品がある。

無償の愛、その強さと美しさ。
映画のラスト、マギーが手に入れたものは彼女が人生で初めて自ら欲してつかんだもの。暖かい幸せにあふれたその姿に、勇気付けられる。

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