2008/01/23

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「ジプシー・キャラバン」 WHEN THE ROAD BENDS


**ジャスミン・デラル監督
**2006年アメリカ
インドに起源を持ち11世紀から全世界に散らばったジプシー。
今なお続くロマ/ジプシーへの言われ無き差別と迫害の中で、彼らが奏でる叙情的で生命力にあふれた音楽は強靭な響きを持つ。本作はそんなジプシー音楽をルーツに持つスペイン、ルーマニア、マケドニア、インドの4つの国の5つのバンドが6週間をかけて北米諸都市を巡る“ジプシー・キャラバン・ツアー”の模様を追った音楽ドキュメンタリー。カメラは北米ツアーに密着すると共に、彼らの故郷も訪れて、その音楽が生まれてきた背景やロマ(ジプシー)文化そのものの歴史にも向き合っていく。
それぞれの場所で重ねてきた年月が、人間が生きていくことの本質的な悲しみと喜びが、彼らの音楽を通してステージの上でひとつになり、圧倒的な力で心を揺さぶる。
インドからの参加、マハラジャのメンバーたちの明るさと素朴で生命力にあふれた音楽が素晴しい。
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「やわらかい手」 IRINA PARM


*サム・ガルバルスキ監督
*2007年 ベルギー/ルクセンブルグ/イギリス/ドイツ/フランス

**ロンドン郊外の小さな町。平凡な、夫に先立たれた中年の主婦マギー。彼女の最愛の孫、オリーが難病に罹り、6週間以内に外国で最新の医療を受けなければ助からないとの宣告を受ける。息子夫婦にはこれ以上費用を工面する力はなく、マギーも何とか力になりたいと金策に奔走するが上手くいくわけがない。絶望の中、ロンドンのソーホーにあてどなく迷い込み、偶然目にした“接客係募集・高給”の貼り紙に飛びつく。ところがそこは風俗店で、オーナーのミキは、世間知らずのマギーにあきれながらも、彼女の手の柔らかさに素質を認め、壁の穴越しに手で男をイカせる仕事に雇おうとする。マギーは一度は逃げ出るが、覚悟を決めその“仕事”を始める。すると意外にも彼女はゴッド・ハンドの持ち主だった・・・。

イギリスが舞台のいつもの大味イギリス映画と思いきや、テイストはヨーロッパ風ビター。
「フル・モンティ」あたりのハートウォーミング・コメディを期待すると大いに裏切られる。
マギーの捨て身の行動は母性愛というだけでは語れない。愛するものを守るため犠牲を厭わずその意志は揺るがない。どんなときも誇り高く、最善を尽くそうとする姿は美しく、崇高でさえある。
まじめに力の限り生きていれば、きっと幸せになれる。ひとりの人間が秘めている可能性はいっぱいあるんだって、そんな風に信じられる。

主要人物は少数ながら、簡潔なセリフと無駄のない演出によって、人間関係は明確で興味深い。
舞台設定は刺激的ながら映画の色調は押さえられ、マギーのように地味だが品がある。

無償の愛、その強さと美しさ。
映画のラスト、マギーが手に入れたものは彼女が人生で初めて自ら欲してつかんだもの。暖かい幸せにあふれたその姿に、勇気付けられる。
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2008/01/11

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「迷子の警察音楽隊」



シネカノン有楽町2丁目

音楽が大好きなこと。

人が恋しいこと。

家族が大切なこと。

言葉が違っても、神様が違っても、国が仲良くなくても、それはおなじ。

エジプトから来た警察音楽隊が、イスラエルの寂しい町に届けたものは、そんな当たり前のことが大事に思える素敵な夜でした。

監督はこれが長編デビューとなったイスラエルの新鋭エラン・コリリン。

主人公は文化交流のためにイスラエルに招かれてやってきたエジプトのアレキサンドリア警察音楽隊。なぜか空港に出迎えはなく、自力で目的地にたどりつこうとするうちに、彼らは一文字間違えてホテルすらない辺境の町に迷い込んでしまう。そこで食堂の美しい女主人ディナに助けられ、地元民の家で一泊させてもらうことに。でも、相手は言葉も宗教も違い、しかも彼らアラブ人と長年対立してきたユダヤ民族。空気は気まずく、話はまったくかみあわない。しかし、一人が「サマー・タイム」を口ずさんだ時、その場の空気が変わってゆく。国を越えて愛されてきた音楽の数々、それが彼らの心を解きほぐし…愛や友情、家族について語り合う、忘れられない一夜がはじまる。

警察音楽隊というから、ディナが想像したように私もてっきりマーチングバンドのようなものだと思っていたたら、ぜんぜん違った。歌があるし楽器が違うし、まず音階が違う。四半音というのだそう。彼らは無事に目的地で、イスラエルにできたアラブ文化センターで演奏し、あたたかい拍手に報いられる。

この映画を背景を知らないで観るのとその時代背景を知った上で観賞するのとでは感じ方は異なる。しかし、これだけは知っておきたい。監督は1978年生まれのイスラエル人であるということ。

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